日本人と言えばすし!皆大好きスシ!
街中を移動中、ふと目を向けてみるとこじんまりとした古風な店構えのおすし屋さんが目に留まることも割とあるのではないかと思います。しかしそこに掲げられている看板にはチラホラと違いがあるのが分かります。
ある時は「鮓」
またある時は「鮨」
と思ったら次は「寿司」
全部「すし」と読むおすし屋さん。
厳密な違いってあるのでしょうか?
庶民はそうそう入れるものじゃないので「全部行って確かめてみよう!」というわけにもなかなか参りません。というわけでこの記事ではその違いをズバリ解説。
『林先生が驚く 初耳学』で取り上げられたこの問題!
しっかり理解して1つ位の高い(気がする)大人になりましょう!
地域別に発展した「すし」の違い
漢字の違いは、発展した地域とその「すし」の内容によって違うようです。
食は文化圏による違いがとても出やすい分野ですので、理由としてはオーソドックスと言えます。ですが、全て「すし」と呼ぶのは同じなのに、使われている漢字が全て違うというのはかなり珍しい気がしますね。同じ物を指して違う名称が用いられているということはよくあると思うのですが。
では、漢字別に使われた地域と「すし」の違いをチェックして行きましょう。
鮓(大阪/自然発酵のおすし)
こちらの「鮓」は大阪を中心に始まったものと言われています。
8世紀頃には既に使われ始めており「すし」という言葉の本来の意味に最も近い表記はこちらです。
すしとは元来、塩などに漬け込んだり醗酵させて保存食とした魚を指す言葉であり、酸っぱいを意味する言葉「酸し」から来ているとされています(※諸説あります)
よって「酢」という漢字に近しい形を取り「鮓」という漢字が用いられたとのこと。
現在でも「なれずし」という形で食されており、酢を使わずに米と魚を一緒に自然発酵させて作られるおすしです。独特の匂いと酸味が特徴で、琵琶湖名物の「ふなずし」などはこのタイプのおすしに当たります。
鮨(東京/江戸前系の握りずし)
この「鮨」は江戸前系のにぎりずしを指して使われています。
元々は前項の「鮓」と同様の意味で用いられていたものが、江戸前系の発展に伴って別れたとのこと。
中国では本来「魚の塩辛」を指す漢字だったそう。日本に伝わった際には前項の「鮓」と混同されており、厳密な境目がなくなっていた漢字でした。
その経緯から、個人経営の職人がいるようなおすし屋さんではこの漢字を用いているお店が多く見受けられます。個人的には「鮨」=高いお店というようなイメージもある漢字だなぁと。
寿司(京都/一般的なおすし)
今では最も多く見られるのがこの「寿司」という表記。
実は使われは始めたのは江戸末期。
現代では圧倒的なシェア率を誇りながら、1番最後に登場した表記だったというのは驚きです。
これは当時の朝廷(京都)への献上品の中に「すし」が含まれていたことから、めでたい漢字である「寿」を採用した当て字を利用したのが始まりと言われています。
その他、還暦など長生きのお祝いである賀寿に際して贈られる「寿詞(じゅし)」が変化したものという説も存在します。
おすしの形態も更に多様化し、ちらしずしやいなりずしなどの必ずしも魚類が採用されていないものが増えたことや、一般家庭でもお祝い毎の時に食べられることが多い食べ物となったことから、この「寿司」という表記が好まれるようになりました。
結果として、庶民に馴染み深いおすしを指して「寿司」という漢字が使われる機会が多いですね。
ひらがなの「すし」は何故使われる?
以上で紹介した3つの漢字表記、今でも全て使われています。ただ、実際はこの3つで全てが完結するわけではありません。
それはひらがなの「すし」を採用することもあるからです。
これにも実はちゃんとした理由があります。
「すし」の表記統一が難しいため
おすしには「全国すし商生活衛生同業組合連合会(全すし連)」という全国展開されている組織が存在しています。これらは「すし」に関わるほぼ全ての食べ物を総括して扱う組織となっており、漢字表記別に分かれているわけではありません。
それにより、統一した1つの表記としてどれかの漢字を選ばなければなりません。しかしそれが文化別に分かれたものである以上、どれか1つを採用すればその他2つを採用している方々から大きな反感が出るのは避けられません。
こういった事情を鑑み「全すし連」ではひらがなの「すし」を採用し、全ての文化圏に公平な形を取ることで収まっています。これも1つ、言葉の使い分けが可能な日本語の長所を活かした采配と言えそうです。
ちなみにこの「全すし連」は都道府県別の小組織が集合して成り立っているもので、そちらに関しては文化に最も近い漢字表記を採用しているようです。
例えば、大阪は今でも「大阪"鮓"連」を名乗っているそうですが、現在では「鮓」の字を採用しているのは大阪府のみとなっています。
都道府県別であれば多数派を尊重することが可能という判断によるものですが、実際はひらがなの「すし」が採用されている県も少なくないという結果も出ています。
馴染み深さを優先するため
回転ずしの大手チェーン店などは、馴染み深さを最優先し、ひらがなを採用していることがあります。カタカナの「スシ」を採用しているのも同様とお考え下さい。
チェーン店などの表記はあくまでニュアンスの問題であり、文化による表記の違いなどはあまり関係がありません。
個人店でひらがなを採用しているお店は全国的にも珍しいそうですが、その数少ないお店もこういった馴染み深さから店名を工夫していることがほとんどだとのこと。
伝統を重んじるよりも、今の人達に合った形を優先するというのも食文化において重大な変化になり得ます。「寿司」という漢字が後発ながらも幅広く定着しているように、ひらがなの「すし」の方が一般的になる時代も来るのかもしれませんね。
まとめ
「鮓」は大阪発祥、なれずしなど。
「鮨」は東京発祥、江戸前系の握りずし。
「寿司」は京都発祥、朝廷への献上品に。
「すし」は統一のための便宜上の呼称。
→現代では最も一般家庭に馴染み深いものに。
こういった文化的な発展によって、言葉を使い分けてきたというのはとても日本らしいと思います。
その当代に合った分かりやすさというのも重要ですが、多様化の煽りで伝統が廃れて行ってしまうのも寂しいもの。こういった昔ながらの言葉の違いは記憶した上で、あえて今の時代に合った言葉を使っていく。そうできる場面が1つでも増やして行けたら良いですね。