一度なってしまうと人生単位で食の楽しみを脅かされる食物アレルギー。
幸い自分は引っかからずここまで生きてきましたが、苦しんでいる人に出会ったことはあり、今後自分や家族がそれにハマらないとも言えないので他人事ではありません。
この食物アレルギーですが、実は9割が皮膚とアレルゲンの接触から始まっていることをご存知ですか?世界中でそれを裏付ける実例もあり、今では経口発生よりもこちらの説の方が有力であるとされているそうです。
今回の記事ではその実例を交えながら、この件をまとめて参ります。
日本国内の小麦アレルギー事件が「経皮感作」発見を裏付ける大きな鍵に
日本国内で2011年頃に「加水分解コムギ」という小麦粉の成分が練り込まれた石鹸を原因とした集団アレルギー発症事件が問題になったことがありました。
「加水分解コムギ」自体は問題がある物質ではありませんが、その石鹸には「グルパール19S」という他にはない種類が使用されており、これがアレルゲンとなることで多くの人々が小麦アレルギーを発症してしまいました。これは裁判にまで発展し、大事件の1つとなりました。
(※現在でもこの石鹸は問題となった物質を抜いた形で商品として販売されているため、正式名称は伏せさせて頂きます)
もちろん、彼らはこの石鹸を食したわけではありません。基本的には顔や身体を洗っていただけの方ばかりだったと思われます。にも関わらずたくさんの方が小麦アレルギーを発症させてしまったのです。
この事件をきっかけに医学界で「アレルゲンが皮膚に触れることでアレルギー症状を引き起こす」という新しい知見が確実なものへと至ったとされています。
今ではこれらの現象は「経皮感作」と呼ばれるようになり、教科書にも載るほどにメジャーな価値観へと変化しているとのことです。
乳幼児は湿疹を介して極わずかな食物アレルゲンを感知してしまう
英国では2008年の時点で「ピーナッツオイルが含まれるスキンケア用品を使用した乳幼児が、ピーナッツアレルギーを発症していることが多い」という論文が発表され、アレルギーを専門に扱う医者の間では話題となっていたという背景がありました。
そしてこの論文には「湿疹が出ている乳幼児にそれらを使用している場合、より発症率が高い」というデータも残されています。
これらのデータから、湿疹が出ている乳幼児の皮膚にアレルゲン物質が当たってしまうと「経皮感作」が起き、アレルギーへと発展しやすいという結果になることを導けます。
この事実が明るみになるまで乳幼児のアレルギーは先天的なものであり、妊娠時に母親が食したものからランダムで発症してしまう可能性があると信じられていました。卵や牛乳の摂取を最小限に抑えるという選択をする母親も少なくなかったそうです。
ですが全く卵や牛乳を摂取しなかったにも関わらず、生まれてきた子供がアレルギーを抱えていたというケースもあり、その実態は長らくベールに包まれたままでした。
この「経皮感作」が知られるようになったことで、湿疹が出てしまっている時期に離乳食などに含まれる該当アレルゲンが、皮膚から感作を引き起こしてしまっていたのではないかと考えられるようになったのです。
今では皮膚の炎症を引き起こしている赤ちゃんは、極微小な食物アレルゲンでも抗体を生成しアレルギー症状を引き起こしてしまうことがあるため、湿疹が長続きする場合は注意を払って医師に相談することが望ましいという認識に変わっています。
そして母親が妊娠中に食事制限をすることはアレルギーに関しては無意味である(学術的根拠はない)という認識も一般化しており、アレルギーに関する育児を取り巻く環境は、ここ10年足らずで大きく変化しているようです。
医学の進歩は、こういった誤った認識を正していくことから進歩して行くということを感じられる1例と言えそうです。
まとめ
食物アレルギーの「経皮感作」についてまとめて参りました。いかがだったでしょうか。
認識のズレや知識不足から大きな失敗や過ちがあり、それによって大きな不利益を被ってしまった人達が世の中にはたくさんいます。しかしそういった失敗の1つ1つがこうして新しい認識を正しく組み上げる足掛かりになっている、そういうことも多いようです。
だから仕方ないと言いたいわけではありません。起こってしまった取り返しのつかないことを「結果的に」という言葉で片づけてしまうのは、些か以上に非情なことであるとも思います。
ですがその当事者になっている方達が、こういった知見から自分達の経験や苦労が全く無駄ではなかったと感じていらっしゃるとしたら、それは1つの救いになるのではないかと思います。
これからを生きていく子供達に少しでも負担のない生活を約束してあげるために、こういった知識は是非前向きに活用して行けたら良いなと思います。
この記事が正しい見識を広める一助になりましたら幸いです。
お読み頂きありがとうございました。