長いこと養成所に通っていたので書けることもありますね。
声優志望者は未だ増え続けていると言われる昨今。10年前に僕が養成所に通っていた頃からブームだと言われていましたが、未だにその声は留まることを知りません。アニメ業界でも華やかな職業である、スターになれば儲かるというイメージは根強いですね。
声優になるならまず養成所か専門学校というのがセオリーでしょう。最近はこれらの数もどんどん増えており、昔より規模を拡大したスクールが数多くある実情。地方展開しているところも増え始め、所属先の選択肢も増えました。
声優養成所に通ってみたい、本気で声優を目指してみたい。そう思う人が世の中には無限に存在する中、同じように散見されるのが
声優になんかなれるわけがない。
養成所に通うなんて無駄だ。
事務所の肥やしになりたいなら通えば?
というネットを中心に展開される批判意見です。
実際、僕は養成所に5年くらい通っても声優になれなかったから、ここでこういう記事を書いているので。その間に車くらい買える金額は払っています。それで声優になれなかったのだから、結果だけ見れば物理的収支は酷いものです。
でも養成所に通うというのは、実際声優になれるかどうか以上に色々な要素が絡み合った行動です。何かを本気で目指すということで得られるものは物理的な収穫に留まりません。
では実際、養成所に通うとどのようなことが起こるのか。この記事では僕の実体験を元に、声優養成所に通う意味について記して行こうと思います。
声優を目指すなら通わない選択はない
まず第一に「声優を目指しています」と周りに言いたいなら絶対に通った方が良いです。
最近はネットが更に大きくなったことにより方法論も多様化し、いわゆるネット声優やYoutuberのような声活動から「声優を目指しています」「声の活動をしています」という人が増えたように思います。
ネット上に養成所や専門学校について「搾取しているだけ」「学校の色に染まってしまう」といったネガキャンがそこら中に落ちているため、それらを都合よく解釈して「自己流で頑張る」という結論に至る人もいるようです。
これは昔から変わらず一定数いますが、本当にプロの声優になりたいなら自己流は間違いなく"逃げ"です。もちろん、趣味で楽しんでいる人についてはそれで全然大丈夫です。
演技力の基礎というのは、誰かの教えもなく磨かれるものではなく、自分で頑張って到達できるレベルには限界があります。稀に自己流で磨いた能力を使ってオーディションに合格し、プロの道を歩み出す人がいますが、よほど恵まれた才能を見染められない限りはあり得ません。
それに、どんな人もオーディションに受かったら必ずその事務所の管轄下にある養成所に通います(お金はかからないと思いますが)養成所や専門学校に通わないで声優をやっている人は基本的にいません。
自己流を称して行う声の活動であっても、周りからアドバイスを受けたりファンの要求に応えるということも出てくるでしょう。もうその時点で誰かの意思があなたの活動には内在するので、厳密に言えば自己流ではありません。ネットの素人集団の色に染まった「ネット流」です。
そういう悪癖が身に付くと後から抜くのが大変なので、本気で目指すなら早いうちから養成所などでプロのレッスンを受けた方がはるかに効果的・効率的ですね。
養成所でちゃんとレッスンを受けながらこういった個人活動に精を出すというのは全然アリな時代だと思います。しかしこういった観点から、業界内の講師やマネージャーにはネット声優的な活動は否定的に捉える人も多いですね。舞台はそんなことないんですが、まだその辺は人権を得ていない気がします。気を付けて行いましょう。
演技の勉強は仕事や就活でも役立つ
声優を目指すというのは=演技の勉強をすることです。
演技とは自分がしたくないこと、普段絶対にしないようなことをする役もこなす必要があるため、自分の性格で幅に限界を作ってしまうと物凄く不利になります。
皆が憧れるスター声優さん達にも、人殺しの役や変態の役、人間ではないものを務めている人が沢山いるはずです。そういうものになりきるため自分という殻を破り、様々な感情表現にチャレンジしていく努力が必要です。
勉強の過程で豊かな表情や姿勢の良さ、他の人にはない目力が身に付いたりします。顔つきその物が変わるなどの、人間的変化もあり得ます。
また、人と会話をする必要があるので、相手に言葉を伝える練習、相手の顔を見てしっかり話をする練習などの些細なコミュニケーション技術の修得。ラジオ出演に備えたフリートークの練習、良い声を出すための肉体トレーニングなど、こなすべきことは山ほどあります。
演技に欠かすことができないクリアな発声や滑舌も練習で極めて行かなければなりません。これはどれほど時間をかけても100%完璧にはならない、非常に厳しい分野ですね。皆苦労します。
課題は無限にありますが、これらには全て共通した良い点があります。
それは、演技の勉強は日常生活に大きく影響を与えるものばかりだということです。
人生を豊かにするノウハウ
真剣に演技をやればやるほど身に付いていく事柄は、普段の会話や喋り方、接し方に大きく関わります。それをさらに突き詰めて行くと、自分の人柄を好転させる可能性すらあるのです。これは楽器など物を使った趣味や習い事にはない魅力だと思います。
僕は声優養成所に通って何年かした後、過去の知り合いに会った時に「なんか明るくなったなお前」と言われることが増えました。
自分では無自覚でしたが、細かい変化が所作や行動とリンクして現れていたのでしょう。あと死ぬほどヤバい猫背と滑舌だったのですが、今ではそこそこ改善されているのであまり指摘されることはなくなりました。
これらは声優養成所に通っていなければ恐らく一切改善されることはなかったし、そういうものを身に付けた方がいいと思うことすらなく一生を過ごしていたに違いありません。
声優になるのは難しいかもしれませんが、養成所で培えるノウハウは本物です。それらは他の人には持てない財産となって自分の手元に残ります。
そして人前に出て何かをする仕事は世の中に無数にありますから、その財産を活用する機会はいくらでもあるのです。
割と本当に面接やプレゼンで有利です。
仕事の関係などで人前でもっと上手く話せるようになりたいという気持ちから、声優の養成所に通い始める人もそれなりの数いると言われています。出会ったこともありますね。
プロを志して行動を起こし、お金を払って養成所や学校に通ってスキルを磨く。そういった本気の行いによって自分が得られるものは大変洗練された経験となって自分の頭と身体に刻まれます。
何もしないで遊んでいるよりは半端なく有意義なので、迷っているなら行動してみてはいかがでしょう?
深い人間関係を形成できる
真剣に通っていれば周りにも真剣な意志を持った人が集まります。
それらは友人であり、同志であり、良きパートナーとなってあなたのそばに残ってくれるでしょう。
僕も養成所やそこから派生した劇団関連で仲良くなった人達はたくさんいて、今でも遊んだりボイスドラマを作ったり一緒に色んなことをやったりしています。
中には事務所に入って声優になり都心で頑張っている友人もいますし、その友人づてに新しいことに誘ってもらえたりしています。
僕は声優養成所に通いながらこうして文章を書くことも続けていたので様々な活動をしているのですが、面白い話を繋げてくれているのはこういった養成所時代からの知り合いがほとんどです。
養成所や劇団など、業界内は閉じたコミュニティが集まって形成されています。逆に言うと、その内部に属してさえいれば、関連した仕事にチャレンジできる可能性が高まります。
自分に続ける意志と力があれば、周りに志の高い人は残ってくれます。何もしなければ業界関係者と知り合いになることも、ましてお仕事をすることもないでしょう。
あと僕は養成所で知り合った人と結婚しました。やったぜ。人生とは巡り合わせです。
上述のスキルも財産ですが、人と人との繋がりなんていうのは更に大きなお金で買えない価値がある。同じ志を持って同じ場所を夢見た人達同士で繋がりを持てる場所は、今の時代そんなにたくさんあるものではないです。
大学に一生懸命通ったって得られないかもしれません。真剣に通えばそれだけのものを得られる可能性は大いにあります。
1つだけ勘違いしないでほしいのは、決して出会い目的で行かないでくださいということ。
あくまで頑張っていく過程で周りに自然と集まった人達が財産になるのであって、最初からお友達や恋人探しに行くとロクな目に遭いません。
周りから疎まれることもありますが、レッスン内容自体そんなに生ぬるいものではないので長続きしません。それこそお金の無駄になるでしょうね。好きでやりたい人だけが通いましょう。どんなものであっても、共通したことだとは思いますが。
まとめ
以上が経験から導いた声優養成所に通う意味。得られるものです。
これを持って「でも結局声優になれないのなら無意味で無駄。もっと他のことにお金を使うべき」と思う人は、本当にそうするべきだと思います。正直これ以上に得られるものもないですからね。
僕は正直言って通った分だけ価値があったと思っていて、これがどこか1年でも短かったら今の自分はないなと思っています。講師にも未だに覚えてもらっていますし、舞台に行ったり連絡したりで話せる方々もいます。ありがたいことです。
自分が声優養成所に通っていなかったらどんな人間だったのか、考えても全く思いつかないくらい、自分の人生にとんでもない影響を与えた場所でした。
始めて10年、退所して5年経った今もルーツを辿ったらそこに辿り着く人や物が多すぎます。
これは余談ですが、通っている美容院で「そういえば声優になりたいって言ってる別のお客さんにはつさんの話したら、『え、神』って言ってましたよ」と言われたことがあるのですが、流石に大袈裟すぎて笑ってしまいました。
でも養成所に通うことすらためらっている段階の人には、やっぱりそう見えるものなのかもしれません。一歩踏み出すことはそれほどに大変なことなのです。自分も現役で夢を追いかけていた頃は、少しでも自分とは違うことをしている人達が皆スゴい人に見えたんだよなぁと。
そういう場所から抜け出すのに必要なのは、まず通ってみることだと思います。学校や仕事と並行して通いやすい体系の所もかなり数ありますし、養成所に通うのはそうハードルが高いことではありません。普通の大人の習い事みたいなものです。
迷っているならまず行動した方が良いと思います。誇張抜きに人生は変わります。声優になれるかは分かりませんが、少なくとも今よりは望んでいる人生に近づくはずです。
ネットのネガキャンなんてだいたい通ってない人の身のない批判か、通っていたものの真剣になり切れずドロップアウトしてしまった人達の吹き溜まりです。そんなものを真に受けて人生を左右されるのは面白くありません。
このように通っていたことをポジティブな意見として書いている人は少ないです。今回は目標を持つ人達の助けになればと思い、この記事を書きました。親や周りに通うことすら大反対されている人などがもしいたら、この記事を上手いこと使って説得してみてください。楽しいこと起こりますよ。
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